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「おかわり」が貰えなかった話

 M君はアメリカで二年間日本語を勉強して来たとても真面目な青年。背が高く立派な体格の持ち主。 日本のホストファミリーはとても親切な一家で、学生のために熱心に食事の用意をした。 食事はとてもおいしかった。 ホストマザーがM君に「お代わりいりませんか」と言ってくれたので、M君は喜んで「ハイ ケッコウデス」といった。 M君は今か今かと待っていたのに、とうとう食卓は片付けられてしまった。 M君の「ハイ ケッコウデス」は一週間続き、M君の空腹も一週間続いた。 そこでM君はハタと気がついた。 これは意味が通じていないのではないかと・・・・。 今度は「お代わりいりませんか」 に「Yes, please.」と答えたらお腹もいっぱいになった。
 M君はここで貴重な言葉の使い方を勉強した。
「結構です」には「Yes, please」と「No, thank you.」の相反する二つの意味がある。学生は「結構なお宅ですね」 という言い方だけ学んで来たのであろう。「Yes, please.」の時は「はい、おねがいします」、「No, thank you.」の時は「もう、結構です」と言おう。

 日本人は相手に対して「いやです」ときっぱり言えないことが多いので、Noの表現が曖昧になりがちだ。訪問販売や宗教等の勧誘に対しても「ケッコウデス」とやや切り口上に答えても、相手は勝手な解釈をしてトラブルになることもある。
日本語では否定形で質問されたら、「No, thank you.」の時でも「はい、 ・・・・・せん」 と答える。 英語では質問がいかなる形でも、そうしてほしくない時は「No, thank you.」と答える。 最近、日本の若者もYes No 型でハイ・イイエと答える者が多くなり、日本語が混乱している。 テレビのクイズ番組などでも、 質問が否定形でハイかイイエかを選ぶ時は「正しい場合はハイですね」などと回答者が確かめている。
 日本語ではNoと否定することをあまり好まない。 Noと最初にはっきり言うときつい人と思われて、悪い印象を与えかねない。従って「私はそうは思いません」と、最後に遠慮勝ちに反対の意見を表す。更に相手に対する気遣いからか「そういうことは如何なものでございましょうか」ということがある。これは「そういうことはよくない」または「私はそういうことに反対です」という意味であろうが、言葉通りに受け取れば発言者は賛成でも反対でもない。


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岩岡 登代子(July 9, 1999)
# by iwaoka2 | 2001-01-01 23:42 | 言葉のエッセイ